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それから数日後、カカシは暗部の任務を遂行していた。同行しているのは先輩暗部の男だった。先輩と言っても自分とそう背格好は変わらない。最初に組むことになった時、世の中には自分よりも若くて強い奴がごろごろしてんだなあとカカシは思ったものだ。天才だなんだとよく言われていたがこうして自分よりも忍びとして優秀な奴がいると思うと俄然やる気が出てくる。元来負けず嫌いのカカシだった。 「ちょっ、待て、薬を飲む。」 カカシは木の上に止まってポーチの中から薬瓶を取った。 「おーい、またかよ。お前ってどうしてそんなによく腹壊すんだ?火影様にデータをもらった時はそんな持病持ちだなんて書いてなかったぞ?」 自分よりも若干高い声で同行していた暗部がため息を吐いている。ちなみにこいつはカカシの指導役でもある。 「これでもだいぶん強靱な腹になってきたんだ。」 カカシは薬を飲み込んだ。即効性だからしばらくすれば治まるだろう。 「任務後でよかったなあ。任務中に腹痛になって敵に倒されたんじゃ教育係の俺としても恥ずかしくて処理班の報告に困る所だぜ。」 カラスはあはははは、と明るく笑った。こいつ、嫌いだ。とカカシはため息を吐いた。 「どうにかしてください。」 「え、やっぱり暗部の任務はきつい?」 「そっちじゃないですよ。まあ、きついっちゃきついですけどそれは自分の実力と経験不足なんで文句はいいません。ですけどあの男だけは許せませんよ。」 「え、彼って教育係の?」 「じゃなくて同居してるあの人ですよ。」 「うーん、彼かあ、でも木の葉の仲間を殺したりとかそういう裏切りはしない人だと思うよ?」 なに言い出すんだこいつは、とカカシは軽く頭痛がしてきた。 「裏切る裏切らないの基本的なことはこの際ちょっと横に置いといて、俺は役割分担と言っていた家事全般のことを言ってるんです。洗濯は洗剤を使わずに水洗いのみだし掃除だってほとんどしないし、なによりも食事がひどすきるんですよ。どうしてあの男の作る料理はああも野生じみてるんですか。今日の朝食なんて虫ですよ!?蜘蛛の姿焼きとかもうあほかと思うんですけど、どうして普通に白いご飯とみそ汁だけでも作れないんですか!?ご飯なんて電気釜に入れて分量通りに量って入れればいいし、みそ汁に至ってはインスタントのお湯を注ぐだけのタイプをわざわざ買ってきたのに使おうともしないでいざと言うときのために取っておこうって言うんですよ?なんであんなにずれてんですかっ。」 四代目はそっかあ、と苦笑している。そののほほんとした空気にさすがのカカシも苛々が募ってくる。 「四代目、一度食べに来てくださいよ。俺がどれだけ苦痛を強いられているか身をもって知ってください。」 カカシの言葉に四代目はそれもいいかもねえ、なんて言っている。その言葉、絶対に実現させてやる、と心に誓ったカカシだった。 「でもね、彼も仕方ないんだよ。ずっと里外を転々としてきたらしいからどうしても節約精神が押さえられないんだろうね。いざとなった時のために貯蓄できるものは全部ため込みたいんだよ。」 精神としては立派だ、忍びのかがみと言える。だが戦場で食料がなくなった時に重宝する能力を里内のいくらでも手に入る時に発揮するのはいかがかと思う。 ある時カカシは任務に行くための準備をしていた。自室でしても良かったのだが巻物を数種類広げたかったため、広い場所で作業する。 うみのは興味が惹かれたのか、少々ファンシーなポーチを手に取った。 「それはスリーマンセルの医療忍の子が上忍合格のお祝いにくれたものだよ。使いやすいから今でも使ってるんだ。」 贈ってくれた子のことを思い出しながらカカシは答えた。 「随分と平和だなあ、こんなものを後生大事にしている暗部なんて聞いたことないぜ。」 その言い方に棘が含まれているとカカシは思ったが敢えて無視した。突っかかっていっても無視しても同じことだ。悪意に対抗はしたくない。 「こんなもの、お前には必要ないだろう?」 はっとして顔を上げるとポーチが燃えている所だった。 カカシは殺気だってうみのにクナイを投げつけた。だがうみのはそれを手で受けてにやりと笑った。ポーチは無惨な姿で床に落ちている。もう使い物にならないだろう。 「弱いなあ、こんなものに執着してるから弱くなるんだ。」 カカシは印を結んでいく。左腕で右腕を支え、右手に集中する。バチバチと手にチャクラが集まっていく。 「はっ、千鳥か。そんな技、」 うみのがチャクラを練ろうとした時、隠れ家の戸が勢いよく空いて、影がカカシの手をつかんだ。カカシはその瞬間にチャクラの放出をやめた。そしてそのまま隠れ家を出て行った。 「けんか?にしては派手なことしてたみたいだけど。」 影が口を開いた。口調は柔らかいが表情は硬い。 「何があったの?」 金髪の現火影に問われてうみのは口を開いた。 「ポーチが燃えただけだ。またいつでももらいに行けばいいだろう、その医療忍の子とやらから。」 途端、うみのは頬に衝撃を受けた、辛うじてその場に留まったが口の端が切れた。 「もう、二度ともらえることはない。その子は数ヶ月前に任務で死んだ。」 うみのはばつの悪そうな顔で俯いた。 「今の拳はカカシの分だ。君がどんな悲しみや苦しみを経験してきたか俺には想像もできない。けれどカカシだって何もおもしろ可笑しく生きてきた訳じゃない。時代も悪かった。スリーマンセルで残っているのはもうあの子だけだ。だがあの子はそんな辛い気持ちを、負の感情を露わにはしない。前へと進んでいる。あなたはどうなんだ。」 うみのは何も言わない。 「カカシ、聞いたよ。燃えてしまったものは、しょうがないよ。」 慰霊碑に、自分の教え子でもあった少女の面影を思い描いて、四代目はカカシに語りかける。カカシは慰霊碑を見つめたまま、呟くように問いかけてきた。 「先生、リンは、優しい場所にいるかな。人を殺してきた忍びでも、安らかにいられるだろうか。」 「大丈夫だよ。死んだらみんな同じだ、敵も味方もない。できれば生きている時もそんな風であればいいけれど、先生、全然へたれだからなかなかうまくいかないよ。」 くしゃっと笑った四代目にカカシも少し笑った。 「先生が火影になれるなんて、きっとオビトもリンも思ってなかったろうなあ。きっと優しい場所で、腹を抱えて笑ってる。」 「あ、ひどいなあ、カカシ。これでも俺は三忍と呼ばれた中の1人、自来也様の師事の元でだね、」 「最近エロエロの本を買い集めているって噂のある自来也様ですか。」 「あー、そう言えばなんか目覚めたー!とか言ってたっけなあ。」 2人はそろって明後日の方を見た。そしてそろそろ帰るか、と歩き出した。 「今日は外食する?」 暗に今日は帰りづらいか?と聞かれたカカシだったが、首を横に振った。 「きっと用意してるから、行くよ。俺ね、先生。リンが死んだり、先生が遠くに行ったり、暗部に入ったりして色々あったけど、うみのさんの待つ隠れ家が我が家だって思うようになってたよ。変だね、あんな心の見えないよく分からない人で、ろくなもの用意してくれない人なのにね。俺、結構、寂しかったのかなあ。」 カカシは四代目の横を歩きながら、少し顔を歪ませていた。忍びは感情を露わにしてはいけないと分かっていても、それでも時には悲しみに暮れたい時もある。今日はそのたがが少しはずれてしまったけれど、きっと明日の任務では通常通りの動きができる。 「じき、できる。」 うみのの、少し小さめの声が聞こえた。 部屋の中も外もカレーの匂いで一杯だった。 「今日は、カレー?」 カカシが聞くと、うみのはカカシに振り返った。 「嫌いか?」 「いや、好きだよ。」 うみのはそうか、と言って火を止めた。そしてジャーの中から少し水っぽいご飯を皿に盛り、具の形が歪つでルーが少々凝り固まっているカレーをご飯の上にかけてカカシの前に差し出した。 「うまいかどうか、わかからないが、」 カカシは素直に受け取った。そして椅子に座って食べ始めた。やっぱりちょっと普通のカレーと違う。けど、とてもおいしかった。だって、この家でカレーを食いたそうな人間はカカシだけだから、うみのは、カカシのためにカレーを作ってくれたのだ。 「おいしいよ。」 カカシの言葉にうみのはほっしたようだった。暗い笑みはどこかに消えていた。だが今度は落ち込むようにして、だが顔を上げて言った。 「カカシ、すまない、お前の大切なものを、俺は、」 「いいよ、あの子の気持ちが消えたわけじゃない。リンのことを忘れるわけじゃない。うみのさんも食べなよ、うみのさんはカレーが嫌いとか言わないよね?」 カカシの言葉にうみのはそうか、と頷いた。 「随分久しぶりに食べるが、昔食べた時はとても好きだったと思う。」 「なら、一緒に食べようよ。」 うみのはそれを聞くと微かに微笑んだ。あ、今、本当に笑った、とカカシは思った。
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